正中神経median nerve、橈骨神経radial nerve、尺骨神経ulnar nerveについての解剖学のまとめです。
これらの末梢神経が損傷するケースでは、特殊な筋萎縮や
筋力低下が生じます。
定位麻痺や高位麻痺の鑑別に関する医療系の国家試験問題も
よく出題されるので、しっかり理解しておきたいですね。
正中神経
median nerve
腕神経叢の内側神経束と外側神経束が腋窩動脈の前方で合わさってできる.
上腕では上腕動・静脈の外側に沿って下行し,上腕の中央の高さでその前方を交叉して内側を下り肘窩cubital fossa(肘関節を屈曲させた際に肘の前面にできる浅いくぼみ)に達するまで枝を出さない.
肘窩では上腕二頭筋腱膜の深層で上腕動脈の内側に沿って下る.
前腕では円回内筋の二頭の間を通る前骨間神経を分枝して分かれ,前腕骨間膜の前で浅指屈筋と深指屈筋の間を下行し手根管を通り母指球の筋(母指対立筋,短母指外転筋,短母指屈筋,第1,2虫様筋)を支配し手指の橈側の皮膚に分布する.
前骨間神経
前腕近位部で分かれた前骨間神経は,筋枝(運動枝)であり深指屈筋の橈側,長母指屈筋,方形回内筋を支配して終わる.
※前骨間神経は、手根管を通りません。
▲この神経が障害されるとperfect OができずTear drop徴候(涙のしずく変形)が生じる.
正中神経低位麻痺
▲手根管症候群による正中神経損傷(正中神経低位麻痺)では,Phalenテストが陽性となる.
また,損傷部におけるTinel徴候が確認できる.
母指球筋は影響されるが,手根管部より上位で正中神経の枝をもらう筋(深指屈筋,長母指屈筋,浅指屈筋など)は影響されない.
橈骨神経
radial nerve
腕神経叢の後神経束の延長として始まり,腋窩を出て大円筋の下方を通り上腕骨の内側から後面に上腕骨の橈骨神経溝に沿って回り,下方に下る.
このとき上腕三頭筋,肘筋,上腕筋(の一部),腕橈骨筋,長橈側手根伸筋に枝を出す.
肘窩の橈側に達すると深枝と浅枝(皮枝)に分かれる.
橈骨神経の高位麻痺
▲上腕骨の骨幹部骨折では橈骨神経溝付近で損傷され(橈骨神経の高位麻痺),上腕三頭筋以下の全ての橈骨神経支配の筋が麻痺し下垂手drop handとなる.
(※下垂手となった場合でも装具などでMP関節を中間位~伸展位に固定すれば虫様筋や骨間筋によりPIP,DIP関節の伸展が可能となる.)
橈骨神経深枝(後骨間神経)
深枝(後骨間神経)は前腕骨間膜の後方を走行する筋枝(運動枝)で、短橈側手根伸筋,回外筋に枝を出した後,回外筋の中(Frohse のアーケード:回外筋の近位縁の線維性または膜性のアーチ)を通り指伸筋,小指伸筋,尺側手根伸筋,長母指外転筋,短母指伸筋,長母指伸筋,示指伸筋を支配する.
橈骨神経の低位麻痺
回外筋付近で橈骨神経の深枝(後骨間神経)が損傷された場合(▲橈骨神経の低位麻痺),手指の伸筋群は全て麻痺するが手関節の伸筋(長橈側手根伸筋)は残るため手関節が橈側に偏位した下垂指drop fingerを呈し下垂手drop handにはならない.
橈骨神経浅枝
浅枝は皮枝(感覚枝)で筋枝を持たず最終的には手背橈側の皮膚に分布する.
尺骨神経
ulnar nerve
正中神経より細く腕神経叢の内側神経束(C8,T1)から起こり,腋窩を出て上腕の内側に沿って下り前腕(深指屈筋,尺側手根屈筋)と手指の筋(短小筋,小指外転筋,小指対立筋,第3,4虫様筋,掌側および背側骨間筋,母指内転筋,短母指屈筋の深頭),前腕遠位内側と小指側の皮膚に分布する.
腋窩からの走行は,腋窩動脈,また,その動脈の続きである上腕動脈の内側に沿って下行し,上腕中央で内側上腕筋間中隔を貫く.
上腕三頭筋の内側頭の前を横切った後,上腕骨内側上顆の尺骨神経溝と肘頭の内側(肘部管)を通る.
そして尺側手根屈筋の二頭(上腕頭と尺骨頭)の間を通り,前腕の尺側を尺側手根屈筋の下で深指屈筋の上を尺骨動脈と伴行しながら下る.
手関節の手前で尺骨神経の背側枝(小指背側の感覚を支配)を出した(分枝ぶんし)後,尺骨神経管(ギヨン管)を通って手掌に入り小指球筋,掌側・背側骨間筋,虫様筋の小指側の筋を支配する深枝,小指掌側の感覚を支配する感覚性の浅枝に分かれて終わる.(手根管は通らない.)
尺骨神経の高位麻痺と低位麻痺
そのため▲肘部管症候群(尺骨神経の高位麻痺)での感覚障害は小指の掌側と背側に生じ,ギヨン管症候群(尺骨神経の低位麻痺)では小指の掌側にのみ生じる.
尺骨神経が損傷するとFroment’s徴候が陽性となる.